先日の個展終了以来、父の四十九日や末息子の結婚など、
哀しんだり慶んだりしているうちに年があけました。
ことしもよろしくおねがいいたします。
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暮れに発行された『詩とファンタジー』(かまくら春秋社)42号で
詩人・高梨早苗さんのノスタルジックなものがたりにイメージ画を描きました。
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秋。
ご依頼いただいてほどなく父が他界しました。
父は、船乗りでした。
・・・いま船を描いているんだ。パパの乗ってた船のことおしえてよ。
なんていうのが最後のおしゃべりになりましたが
そのときの、久しぶりに輝いていた父のまなざしや微笑みをわたしはずっと忘れないでしょう。
親孝行の機会さえくれたこのしごとに感謝でいっぱいです。
父はその夜、待ちわびた迎えの大型船がやっときた、とでも言いたいくらいに
すぱっと船出してしまいました。
あまりにかっこよく清々しく、家族皆でいってらっしゃいと見送りました。
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ところで船乗りさんというのは昔、この物語のように
世界のどこかにいつのまにか自分のこどもがいる、なんてことがあったようですが
事情は大きく違うものの、
父の娘も、彼の航海中に自分の故郷で生まれています。
誕生の知らせをうけた寄港地ドイツで記念に大きなねじまき時計を買って帰ってみたら、
娘は生後8ヶ月、やや訝しがったものの、生き写しの目と目を合わせるとすぐに父と認め、
その後半世紀をこえてたいへんなかよく親子しました。
いま、こんな世界の状況で
生まれたばかりの我が子に会えず、独り遠洋航海にいるかのようなもどかしさをかかえる若いお父さんがいるのも聞き知っています。
これからの親子のつながりをおもって心細いかもしれませんが、大丈夫。
かならず倍返し千倍返しのしあわせな時間が待っていると
船乗りの娘が保証します。
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ねじまき時計はいまでもわたしのそばでのんびりと時を刻んでいます。
父の旅も続いていることでしょう。