2014
31
Mar

日々記

だんまり日記 3月

◆ギタリスト数名のかたがたが出なさるライブにいき、若いギタリストさんの音色に出会う。
奏者案内をながめて長男と同い年と知って遠い目になる。

◆しかし、それはそれだ。
ライブ終了後わくわくと現場にてCDを購入する。
ご本人が販売しており、サインをしましょうか、とおっさるのでおねがいする。
ありがとうございます、と若きギタリストが握手すべく手をさしのべてくださる。

◆考えてもみてほしい。
ギタリストさんである。
ギタリストさんと握手である。
過去にもある。
感動のあまり倒れるかと思った。
生まれかわったらアコースティックギターになるんだ。
自分はそうきめている。
だれのギターになるか。
来世の計画のために日夜耳をすませているといってもいい。

◆わかいギタリストさんは大きなあたたかい手で
わたしの手をすっぽりとつつんで握った。
じっと目を見てありがとうございますとくりかえした。
倒れてもいいところだ。
すくなくとも口がきけなくなってもおかしくはない。
それなのに。

◆息子よ あれは。
あんたを、または あんたのともだちを、
いっておいで。と激励する時の握手。
「がんばってください。」
静かな声でそういったかあさんはちょっとかなしい。

◆窓をあけて耳をすます。
海鳴りを きく。

◆朝の連続ドラマで主人公が息子の出征を見送るのを正視できなかった。

◆いっておいで。と見送るのは、握手するのは
若いうちには無限につづくと疑いなく信じているかれらの明日をともに信じるためだ。

◆いきるよろこびに加担するためだ。

◆おかえり。をいう約束の半券だ。

◆2年間のひとりぐらしをすませて帰った末息子の、
かあさん、きょうの飯なに?を3日もきけばもう
ブランクを感じない。

◆指一本ふれさせなかった思春期の息子が 肩がこった、腕までしびれるというので
どれ。
と さわる。何年ぶりだろか。

◆3年前。
さわんな!とあいさつ代わりにほざいていた末息子に
「ガキだな。おまえ。」と鼻をならしていた長男。

◆「おれを見ろほら、母さんにどんなにいじられようと平気だぞ、なんともおもわねえぞ」

◆これがおとなの男だ、という。

◆そうだよ。かあさんにいじられたくらいスル―してこその器がおとなの男だよ。ねえ。

◆と 見本に、長男のほっぺたをぐりぐりしてあげた。

◆なんだよ、そのひきつったような笑顔は。

◆末息子が鼻でわらい返す。

◆しかしそれは3年前だ。

◆ためしに末息子のほっぺたをぐりぐりしてあげる。

◆なんだよ、そのひきつったような笑顔は。ごはん作んないよ。

◆思春期?反抗期?なんだよ、それ。もうおわったよ、おっさんだよ、ぼく。

◆はたちがいうな。生まれた時のままのわらったような素顔で。

◆おかえり。

◆こどもらのそのひとなりがたちあらわれる。反抗の季節をおえて 順繰りに。

◆3年がたった石巻の春にいままで目をむけなかったものをみる。

◆桜を 描いてよ。
冬のいりぐちでそのひとがそういったので
そうしようかと思い、このまちのひとたちが
ずっと桜をたのしみしてきた丘の公園にのぼる。
幹だけでも描いてこようか。

◆さんぽのおじさんと話し込む。

◆ここの桜はすごいよ。
ライトアップもしてさ、そりゃたいへんなにぎわいだったよ。
18で仕事の新人だった時は場所取りで朝からきたよ。
丘だろう?平地はとり合いなんだ。

◆寒くてよお。
そこで酒買ってよお。
飲んでたよ。

◆このごろは花見もやんないね。

◆桜の下の花見用のベンチ。
ぬりかさねられた色の数。
つみかさねてきた花見のよろこび。
この街の 春の よろこび。

 

 

 

 

 

 

◆まだ咲かない桜の森からは 街を
街だったところを 一望してしまう。
かさ上げ土盛りが 始まっている。

◆また お花見はできるでしょうか。いつか。

◆どうだかな。

◆満開をちからいっぱい想像しながら桜を見上げる。
枝ごしに 丘の頂上の鳥居が見える。
鳥居は 街だったところを見下ろしている。
鳥居の足元大きな箱に
菜の花がたむけられてあふれている。
おかのふもとにむかって。
衣装箱いっぱい いちめんの なのはな。

◆丘の急階段をくだって
街だったところへ。
がんばろう石巻。の看板にいつものように花をたむけ
丘を見上げる。

◆あそこにのぼってさえいれば。

◆さくらいろにけむる丘を想う。

◆そのながめの かなしみ。

◆雲雀の 声。

◆おじさんにおそわった漁港へ歩く。

◆歩くのか。1時間ほどあるよ。

◆でこぼこの舗装道路を歩き、ぬかるみにあしを すべらせる。
歩く人はなく
建築工事の音。水産加工場の音。

 

 

 

 

 

 

◆そのすきまを縫うようにたどりついた漁港の岸。しずか。

 

 

 

 

 

 

◆海が ここから あふれてきた。

◆あたらしい仮の市場のなんといううつくしさ。

 

 

 

 

 

 

◆独りあるく。

◆この島国できっとくりかえされてきた浜辺の風景なのだろう。

◆すべてをうしないかなしみとともに
またいきなおしてきたうみべのくらしのさきにいま たつ。

◆幸あれ。海。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆福きたれ。海の街。

 

 

 

 

 

 

◆おそるおそるたずねる これからも。
かなしみのうえにしずかに
堆積されていくいろを みにゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆あす別れる職場のひとに贈るといって
カラフルな布モノをこしらえる娘と
あまい和菓子を食べながらお茶を飲みはなしこむ春の夜。

◆わかく せつない きせつに みみをすます。

◆海鳴りをきこうかと窓をあけようとして よす。
すずめが来ている。
二羽で 首をかしげ ちゅん。と話す。
薄物のカーテン越しに、
そっと みていることにする。

◆わかれ。であい。

◆春。