でんきやさん劇場2 スーパーデンキヤーズ一座

2013年7月9日(火)

ひんほ~ん、でんきやでええす。と「鳴った」のは3時ちょっと前だった。

玄関をあけると、立っていたのはメガネのぽっちゃり青年、

どうも~、おせわになりま~す、おじゃまいたしま~す、しつれいしま~す、と

ほがらかに ごあいさつ連続技をくりだしつつ、

冷蔵庫置き場を確認に家にあがってきた。

もうひとり、いま、車とめてるんで。と言いながら、

玄関から、台所のその場所までの、

ルート確認と幅確認を瞬時におこないつつすすんでいく。

ういーん、ういーん、と首を前後左右上下に振りながら

室内空間を目視、

1.5秒に一回は、シャーっとメジャーをのばし、

即座に ちゃっ!と尺をひっこめる。

ほんとうに 測っているのか。そんな速度で。

ういーん、シャーっ、ちゃっ!

ういーんういーん、シャーっ、ちゃっ!

ういんういんういん、ういん、ういん、シャーっ、ちゃっ!

あっという間にルートは確保した。らしい。

プロだ。プロが来た。

そして、メガネのでんきやさんは、

ぴっかぴかの母なるれい・ぞうこの前に立つと、

「あ。この型!はじめて見ました。うん。かっこいい。」

と、しみじみした。

母は、照れつつも喜んでいる。気がする。

ど~も~、でんきやで~す、と 背後から別の声がした。

もうひとりのでんきやさんが玄関から

失礼しま~す、と今度は名刺片手にあがってきた。

スキンヘッドの、小柄な、まなざしのくっきりした青年だ。

あらためてていねいなあいさつをいただき、

では。と

でんきやさんたちは、れい・ぞうこの運び出しにとりかかった。

メガネのでんきやさんの見立てどおりにあっという間に

ふたりで はこびだした。

外まで わたしはついて出て、

夏のひざしを浴びる不自然なれい・ぞうこの

最後の写真をとった。

母はひなたがきらいだった。

冷蔵庫も、顔をしかめている。

日差しを浴びてもきれいだよ。

最後くらい、笑ったらどうだ。

木漏れ日がゆれる。

 

家に入り戻ってからもわたしは、

ちいさな庭の縁側にたって、

往生際わるく 無言のれい・ぞうこを名残惜しんでながめていた。

と、庭の前をとおる、道路から玄関までのスロープ通路を、

スキンヘッドのでんきやさんが、

巨大な段ボールをひとり、箱にかけられた荷物ひもを手掛かりにして背負い、

たっ、たっ、たっ、たっ、と

なかなかリズミカルにのぼってきた。

段ボールには、

買ったはずの冷蔵庫のメーカー名やら型番らしきものやイラストがかいてあり、

すなわち、彼は、冷蔵庫の箱を背負ってきたのであって、

ふと疑問がわいたわたくしは、のんびりと質問した。

箱、なにかにつかうんですかああ。

彼は、返答しない。

スロープのなかばあたり、

でんきやさんの一歩が急に重く遅くなり、

その一歩ごとに、彼は息をついていた。

あらたな疑念がわく。

え!中、はいってるんですか!冷蔵庫がですか!

すると、彼の背後から、

メガネのでんきやさんが、

あーあーあーあーあー・・・・

行っちゃう? ひとりで行っちゃうってわけ? 行けちゃう?

と 抜けたような声を出した。

スキンヘッドデンキヤ―の歩みは、見る限りは限界に近い。

エベレストデスゾーンとは、こういう歩みで登り切るのではないのか。

瞬時にだれもが想像するだろう。

すくなくともわたしの気分は、一瞬にして標高8000メートルだ。

よしっ!よしっ!

お囃子担当のメガネデンキヤ―が気合いだけ送っている。

わたしはあわを食っている。

そしてとうとう、

彼は、スキンヘッドデンキヤ―は、みごとに、

単独登頂をはたしたのだった。

「・・・・冷蔵庫って、ひとりで運べるんですか。」

たったいま 目の当たりにした、訊くまでもないことを、わたしはたずねた。

彼は胸をはって肩を上げ下げしながら いったん息をととのえると、

いや、きょうは好条件でした。とこたえた。

荷台の高さ。

冷蔵庫の大きさ(ちなみに購入したのは500リットルだ。ちいさくはないはずなんだけど)。

ルートのたしかさ。

絶好でした。

そう言って笑った。

それから玄関先で、段ボールの荷ほどきをしながら、

独りで運ぶとメリットがあるんです、と語り始めた。

「買ってはいただいたものの、

段差が大きかったり通路がせまかったりで搬入できず、

結果的に購入を断念していただくという場合は案外すくなくないんです。

それでも、どうしても はいらないか、とあきらめきれないお客様もおおく、

そのとき、独りで背負ってお見せしながら、

む、無理です!と申しあげると、

そんなあなたが言うんだからむりなんだね。

と納得してくださるのですよ。」

なるほど。過酷な職業だ。感心していると、

「そんなおまえならなんとかしてくれよ、って逆に懇願されることもあるのですけどね。」

わたしは一気に混乱した。

すくなくともそんな状況におちいることを メリットとはいわない。

しかし、どのみち、これはすごい技だ。と思う。

「こんなすごいものを、わたしはひとりで見ちゃってよかったんでしょうか。

家族にも見せたかったです。

びっくりして、写真をとらせていただく余裕もありませんでした・・・・。」

と申し上げると、彼はあからさまに猛烈によろこんで、

メガネデンキヤ―に叫んだ。

「なんか、すごいことやっちゃったみたいだよ~~~~~~」

そうか。やはり 芸だったのか。

見せてこそだ。受けてこその、至芸だ。

スキンヘッドデンキヤ―はそして、

やっちまったなあ、と のんびり後をおってきたメガネデンキヤ―と

新冷蔵庫を二人でらっくらく室内に搬入、

メガネデンキヤ―がひとあし先に段ボールなどの片付けに外にでたあと、

簡単な説明と注意、搬入作業チェックリストの確認などして、

ありがとございました~!

と帰りのあいさつをなさった。

最初のひんほ~んから、ここまで約15分!

驚きの速さだと思う。

いやはや、ありがとうございました~、とわたしもいっしょに、また外へ出た。

母のれい・ぞうこの、最後の見送りもしようとおもった。

スキンヘッドデンキヤ―は、見おさめですもんね、見送ってあげてください、と

いいつつ、スロープをおりた。

客の心のうちまでうすうす察する、すばらしいでんきやさんだ。と思う。

短い坂道をおりきって、

あれ?

彼は 立ち止まった。

わたしも 立ち止まった。

さっき、いったん、母なるれい・ぞうこを置いたそこには

なにもない。

だれもいない。

でんきやさんのトラックは隣家の駐車スペースをお借りして停めてあったが

その荷台のなかでがちゃがちゃ音がしている。

と、ぬう、と顔をだしたのはメガネデンキヤ―、

「あ。もう積んだよ。」

っつって、目線を 空に流した。

ひとりでか!

スキンヘッドがさけんだ。

ひとりでですか!

わたしだってさけんだ。

メガネデンキヤ―はあらためて胸をはる。

「ぼくだって!今日はたまたまサブですけど、

いつもは メインですからあ。はっはっはああああ!」

芸もちがふたりだ。

しかも、負けずぎらいだ。

もはやコントだ。

こんな主役級のふたりが 二人で来る意味はなんだ。

ひとりでひとつ冷蔵庫を持てる男が、コンビを組んでいるって・・・・・・・・・。

はこぶべき家電たちは もう一座にしか思えない。

母をふくめた彼らをのせた荷台の扉をしめて

せまい道路へトラックをだすとき、

二人はきょういちばん真剣な目つきになった。

お気をつけて。

わたしは頭をさげた。

「この街、道がとくにせまいでしょ。

搬入時間短くないと、駐車問題のほうがおおきいんです。

さっさと、を めざしてるうちにね、なんか独りでもったりするようになっちゃってね。」

さいごにコンビはそういってお互いをたたえあった。

秀逸なわかものに背負われて母は、

こうして

家電量販店の搬送請負業を装う コント集団スーパーデンキヤーズ一座となって

去っていったのでした。

なんか、しあわせに旅をつづけているような気がしてならない。