君の椅子 のこと

2011年10月12日(水)

 

そのひとがいないとき

そのひとの場所は

そのひとの帰りをじっと待っています。

そのひとのいすに会いました。

 

「るすばんいす」のあとがきの一部です。

そのひとのいすは、そのひとのかえり場所です。

うちの窓辺の西日の中で ひとりぼっちで待ついすが、

だまってそれを訴えてきて、できた本です。

 

 

 

 

 

 

絵本・るすばんいすができたころ、ほんとうの「そのひとのいす」に出会いました。

いすたちは、「君の椅子」と名付けられています。

 

そのまちでうまれたあかちゃんにいすを贈り、

あたらしいいのちの誕生を、まちぐるみで祝福して迎えるというこのプロジェクトを、

日経マガジン(日経新聞の月一日曜折込冊子)で知りました。

2年ほどまえの、冬のことです。

うつくしいカラー冊子の、見開き記事のまんなかを大きく占める写真をみて、

めまいがしました。

こがねいろのこかげで、西日を浴びる、4脚の、いいえ、4にんの、「君の椅子」たち。

しかも、なかのひとりは、るすばんいすの「いすくん」にそっくりでした。

そして、そのまちは、北海道・東川町。

毎夏、かならずおたずねしている、神々の山並み・大雪山のふもとの、

日本一水がおいしいちいさなうつくしい町、

そこに住みたくて、ながくなやんだことさえある、あの町でした。

 

記事を書いたのは、どうやら、日経新聞の松本さんというかたです。

めまいがおさまるかおさまらないかのうちに、わたしは手紙をかきました。

 

椅子が、そのひとの居場所であるとつよく感じていること、そのことを絵本にしたこと、

だいすきな東川の町で、あたらしく生まれたひとを祝福するために、

そんな想いのこもった幸せな椅子が、

ほんとうの姿をもって生まれていることを知って、

胸がいっぱいになったこと、

ちいさな絵本づくりのしごとばにも、同じ思いがあったこと、

椅子を贈られるお子さんやご家族はもちろん、

椅子のほうも、さぞかし幸せかと、

おめでとうを言いたいこと。

できたばかりの「るすばんいす」を添えて、お手紙をだしました。

 

ほどなくいただいたお返事には、

松本さんご自身が、このプロジェクトに感銘を受けていること、

るすばんいすに共感してくださったこと、

記事じたいが読み手のこころに届いたことがとてもうれしいということ、

などがありました。

 

これでおわりではありませんでした。

 

ことしになって、「君の椅子」は、とうとう、大手町にやってきました!

プロジェクト発起人の北海道文化財団理事長・磯田憲一さんをお招きした、

日経マガジン・トークイベントです。

松本さんがさそってくださり、

至光社の編集さんや、syocaさんにも声をかけて、いっしょにいきました。

君の椅子たちきょうだいは、6にんにふえていました。

きちんとしたたたずまいで整列していたほんもののいすくんたち、

どうぞ手にとって好きにみてほしいとの磯田さんの掛け声で、

参加した100にんほどのおとなたちがつぎつぎなでたり写真をとったりするうちに、

あっちをむいたりこっちをむいたり、がやがやとし出し、

だんだん、大手町の日経ビルの、黒とガラスと「日経平均グラフ」のしゅっとした空間を、

あの、こがねいろにかえていくようでさえありました。

磯田さんのトークで 君の椅子が、

ちいさな地域の、ちいさな連携からつづく、じつに地道で ていねいな

そしておとなたちの熱意で成立しているプロジェクトであることを、あらためて知りました。

大きな災害があって、

みんなが、ふりかえるようにしてつかもうとしている「なにか」のひとつのかたちとして、

君の椅子プロジェクトのような「まちぢから」が、ゆっくりと、けれども、しっかりと、

うまれ はぐくまれ ひろがってゆくことをねがう、そんなイベントでした。

 

「時間があれば、あなたにもおはなしをふりたかったのですけど。」

磯田さんのたっぷりとしたトークがおわったあと、松本さんがわらいました。

松本さん自身も、早い時期から感銘をうけながらも、

じっくりとみまもってきたプロジェクトだったことを、あとになってききました。

それぞれの場所で、それぞれのしごとで、おなじ想いで、生きるおとな。

きょうはそのことで胸がいっぱいでした。

人生って、おとなになるって、すばらしい。

 

松本さんにうながされ、トークのあと ごあいさつがてら、

磯田さんにも、るすばんいすを、おしつけがましくお贈りしました。

数日して磯田さんがお手紙をくださいました。

 

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大手町での初めての体験に緊張していたかもしれぬ「椅子たち」も

札幌大通の工房に戻ってきました。

小さな空間ですが、なぜか心落ち着く場所です。

「るすばんいす」、工房におかせていただきます。

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すてきな、ふさわしい場所にいられるいっさつになりました。

 

「君の椅子」のあんない冊子に、こう、大きくかかれてあります。

 

生まれてくれてありがとう。

君の居場所はここにあるからね。

 

君の椅子とのこと そのほかの日々記

 

日経マガジン2009年12月20日号