2014
28
Feb

日々記

だんまり日記 2月

 

◆ここしばらく考えていることだけれど

ちいさいこどもがにこにこしているのは

生まれてきたせかいが うつくしいと信じられているからだろう。

 

◆この世界へ 飛来したばかりの あたらしい いのちが。

 

◆先日の冬の旅を思い出すにつけ、

大きなひこうきにのって わたしは 氷点下の雪の国に飛来したのだ。

 

◆うつくしい  未知のせかいに 舞い降りたのだ。

 

◆にこにこ しないわけがない。

 

◆うまれたばかりのころの 世界への肯定を わすれずにいられるように。

旅をしよう。

 

◆うまれたばかりの こどもたちが まるまる肯定できる世界であるように。

暮らそう。

 

◆こどもであろうとする一方で  わたしは わたしたちは おとなだ。

 

◆などと 決意もあらたに 麦酒ください。

 

◆海辺のちいさな家に おじちゃんとおばちゃんがぼんやりと暮らしている。

ときおり わさわさと  若い者たちが家に寄って来ては

どやどやと ごはんを食べる。

 

◆ゆっくり ぼんやり すごしていきなさい。

おばちゃんが ちょっとはりきる。

 

◆おじちゃんは わかいものと おたがいのしごとのことを

はなしている。

 

◆おじちゃんは以下のことができない。

手先を器用につかうこと。

にこにこすること。

夜更かし。

ひとのうわさばなし。

ひそひそ声。

いわゆる、空気をよむこと。

 

◆おばちゃんとしては びじねすまんとはこういうものだと思っている。

おばちゃんは ひとりでぼんやりとすることをこよなく愛するが

こういうびじねすまんたちや

おとなになったばかりのわかものにごはんをこしらえるのも

まあ きらいではない。

 

◆しかし やってくるわかいものに しらないお料理を教わるのも好きらしい。

 

◆つくってもらうのは なお 好きらしい。

 

◆なりふりかまうな。ふりかえるな。よく眠れ。よく食べろ。気にするな。うそはつくな。

 

◆みるまえに、 たまには とべ。

 

◆生きてりゃいろいろある。いくつになっても しらない自分にあえるとわかる。

 

◆おじちゃんとはなしていると若者はそんな気がしてくるが

おじちゃんはべつに そうしろとはいっていない。

自分がそうしているともいっていない。

 

◆おじちゃんが そういうふうに 生きているらしいと わかってくるだけだ。

 

◆それが 海辺のいえのちいさな厨房からのこの早春の景色だったと

おばちゃんは いう。

 

◆みんなが帰ったあと

わかものが土産にもってきたいりまめをつまみながらおばちゃんはたったひとり、

厨房のカウンター越しにだれもいないテーブルをながめて

おもいだしてはうすらわらいをうかべている。

 

◆また おいで。

 

◆そろそろ 庭の水仙がさく。

 

◆場違いなほどの  雪景色!

 

◆45年ぶりといったら

あの 雪だ。

さんざんあそんだ、あの、雪の日だ。

 

◆浜は吹雪くかるく。

ひとは歩くひとり。

 

◆海はいいぐあいにまったりとおだやかで

灰色に凍りかけてみえる。

 

◆波音がない。

 

◆息もたえだえのゆるい波がうちよせて

雪の浜に歯形を残す。

 

◆浜沿いの道路はトラックばかりがいつものように往来する、

静寂もない。

 

◆しかたがないので頭の中で音楽を鳴らす。

 

◆まあ、ざっと、演歌を。

 

◆ちいさな子らが浜にかけだしてくれば

様子は一変。

 

◆あたまのなかの音楽は演歌から童謡に。

 

◆ところでちいさい子らはいきなり雪遊びなどしない。

ただ白い浜を駆け回る。

 

◆こどもらのおとうさんが

雪玉をひとり ころがしはじめる。

 

◆まわりをちいさいきょうだいがはしりまわる。

 

◆顔が ほんとうに  まっかっかだよ!

 

◆平らかなに整えられた氷のうえで 若いお嬢さんが

みるみる再生するのを目の当たりにする。

4分かけて。

 

◆「わたしはあのとき生まれ直した。4分のうちに。」

その事実はまちがいなく彼女のこれからのいしずえだ。

 

◆その4分。彼女にしか流れない時間。

 

◆ほんとうにほっとした。

 

◆かんぱい!

 

◆インフルエンザだらけのおうちに

お買い物はないか、おうかがいをし、

トマト栽培農家の友人に

ハウスつぶれなかったかおうかがいする窓の外で、

とんびとからすとひよどりの

三つ巴の空中戦。

 

◆雪からはじめる。こおりから始める。

 

◆ゆきから  はじまる。