2013年1月15日(火)
こどもらがほぼ育ちきって、5人で大移動していた旅も、
夫婦ふたりでぶらりと出る。
行き先はあのころとかわらない。
北の緑の湖に、今年もまた、
ふたり乗りの小さな舟を出す。
そのとき向いている方を行き先にして、
きままに湖をわたる。
静まりかえる朝もやの中、
鏡のような湖面にえんりょがちに櫂をいれ、
だまって漕ぐ。
・・・あの入り江を5人で漕いだ。
その岸で焚火をした。
やみの中、湖をわたる羽音をきいた。
湖面に星が映っていた。
寒がって末息子が泣いた・・・。
ふたりそれぞれ、まずは無言で思い出にしずむ。
ぽつらぽつらと、
どちらからともなく口に出す情景は、
相手の頭の中にも同じにうかんでいる。
なので、そうだよね、そうだった、としか、
おたがいこたえもない。
親子だろうか、
10羽ほどつれだった水鳥の列が
湖を泳いでわたっている。
と、彼らは羽ばたきながら湖面を疾走、
順ぐりに飛び立っていく。
だまってそれを見送る。
―ふたり旅はいいね。
―うん。
―またみんなで来るのもわるくないね。
―うん。
湖のまんなかでぼんやりといまを漂いながら、
想いはむこうの岸へ、
5人でわいわいとやってきたあのころへわたりたがる。
もやが少し晴れて日が射す。
湖面がきらめく。
―ここはいつ来てもほんとうにいいね。
―うん。
―みんなで来ておいてよかったよ。
―うん。
―毎年来ちゃうね。
―もちろん。
そして舟を出してゆらゆらと、
湖と時をわたりながら、また同じ会話をするのだ。
来年も再来年も。何年でも。
(こどものせかい2013年2月号
にじのひろば掲載
特集テーマ「わたる」)