2020
19
Aug

日々記

旭川斉藤牧場

北海道旭川・斉藤牧場 ポストカード原画『かえりみち』。

近年注目の山地酪農のパイオニア、旭川斉藤牧場は

「牛が拓いた牧場」として知られています。

わたしをふくめ、おそらくおおくのひとがおもう北海道の牧場は広大な平地ですが、

斉藤牧場はあまりにも違います。

牛を山に放ち、そこにある山の自然に牛といっしょに溶け込み

すこしずつすこしずつ牧場にしていったうつくしい山です。

ここで斉藤さん一家は牛を飼っていません。

牛と くらしています。

と わたしは 思います。

訪れた日、牧場は雨でした。

3代目の斉藤未来さんにつれられて山にはいると、

「あんた、だれ?」と ばかりに

手を伸ばせばまちがいなく届くところに、角がはえたままの雌牛さんたちが寄ってきました。

ふんふんと鼻息がきこえました。

斉藤さんちの牛さんたちにはストレスがなく、

たいへん穏やかな方々なので

角を切る必要がないとききました。

「おじゃまします、はじめまして です。」と

わたしははっきりとことばにしてごあいさつすると こんどは

「あっそ。ごゆっくり。」てな感じで

草をたべたり、

大好きな3代目に甘えたり、

のんびりと草の上にすわったり、と

気ままに散っていきました。

すこし離れたところに小山のような牛がどおんとすわっていました。

あれが雄牛。とおしえてくれながら

3代目斉藤さんが寄っていくと、

雄牛さんはめんどくさそうにたちあがりました。

からだの高さが、背の高い3代目斉藤さんとかわりません。

おなじ背丈のふたりはなんだかゆるいステップをふむようなしぐさで向かい合っていましたが、

にこにこと とおせんぼする3代目さんの脇をするりとぬけて

雄牛さんは雌牛さんの方へ御機嫌伺いに歩いて行きました。

ここでは牛さんがたは 自然交配にまかされているのだそうです。

やわらかい雨が降り続いていました。

周囲の山が煙っています。

斉藤牧場では搾乳のために、山じゅうで気ままにしている牛さんたちを

あつめなければなりません。

夕方、その風景がほんとうにすてきだ、と

同行の青年が教えてくれました。

・・・牛を追うって感じじゃないんですよね。

   牛と歩いてます、斉藤さんは。

   こんど そんな時間に来ましょうよ。

絵は、その想像図になりました。

ゆるくない斜面をのぼったりおりたりして

穀物飼料をたべることなく 草をゆっくりきままにたべてくらす牛さんが分けてくれる牛乳は、

こころなしか青みがかり、

すっきりしたのどごしなのにあまいかおりが鼻のなかにのこり、

いくらでも飲んでしまいそうでした。

豊かさってなんだろう、と

北海道にいると もともとゆさぶられてばかりですが

斉藤牧場の風景や成り立ちは また格別です。

斉藤牧場の開拓や哲学については

斉藤牧場ホームページ

関連書籍もあります。