2017
14
Mar

日々記

山のすそ野で待つ春は

2017年3月14日(火)

着陸しようとする飛行機からのながめは、3月になるというのに雪のひといろだ。
雪いろは町も田も畑も林も覆い、そのまま町の自慢の大雪山までつづいている。
人口8000人の小さな町に、まだ粉雪が舞っている。
ひとけのない白い夜道をきゅっきゅと歩き、居酒屋さんの戸をがらり開けるとそこに、
町のひとたちがたっぷりとあたたかく集まっている。
おとなにつきあい、こどもたちも夕飯に来ている。
あ。キヨシさんがいる。
ほろ酔いキヨシさんは、口癖をくりだしてごきげんだ。
ーーー大雪山な、8000分の1はオレのもんなんだ。
ははは。わたしも笑いながら、空から見たなだらかな雪野を思い出して、
どこからが山なんですかね、と応じる。
がっはっはぁ・・・とキヨシさんはのけぞって笑った。
いっしょになってほろほろしながら、来そうで来ない、この町の春をおもう。
いつだったか、山と町のあいだの野にきっぱりとあった、雪解けの境界線。
耳をすませばちろちろと、水にかえってゆく雪のささやきがきこえた。
春。そんな季節のさかいめは、香り立つ風といっしょに、北海道一の山の頂をめざし、
町をぬけ、野をかけてゆく。
そうしたらいまここでほろほろのおとなたちといっしょになってわいわいしている子どもたちも、わっとばかりに野にくり出すだろう。木々はどっと芽吹き、花もたちまち咲盛り、野は、幸福なざわめきやきらめきで、いっぱいになるだろう。
そう想うだけで、いっそうほろほろする。
もう、来たらいい。
春よ、来い。

(至光社こどものせかい 2017年3月号付録 にじのひろば 掲載)