君の呼び名

2014年5月2日(金)

三きょうだいの末っ子を、まちのひともコウちゃんと呼んでかわいがった。
3歳のときだろうか、5歳上の兄・シュウくんの授業参観へ出かける道で
コウちゃんはかあさんとつないだ手をふりほどいた。
「みてー。ひとりであるけるの。コウちゃんすごいでしょ。
こんなにおおきくなったんだからさあ、
もう『シュウくん』てよんでほしいな。」
かあさんは、コウちゃんは一生コウちゃんであると、静かに告げた。
コウちゃんは、ひっ!と息をのんだ。
そんなばかな。いつかシュウくんになれるとおもってたのに・・・。

十代に入るとコウちゃんは、まちのひとが
「あら、コウちゃん!」なんて声をかけるのを煙たがるようになった。
『ちゃん』だと?
じろり流し見る切れ長の目は鋭い。
やさしい男なのに。
ふん!オレに不可能はない!
コウは広い肩で風を切って、厄介で健全な思春期を歩いた。

二十歳の秋。
とうさんがコウを仕立て屋さんにさそった。
久しぶりに並んで歩けば末息子は見上げんばかり、シュウよりもずっと背が高い。
「コウ。」
とうさんは感無量だ。
「大きくなったな。・・・シュウくんて呼んでやろうか。」
「ふん、断る。」
そういうとコウは、にやりと笑った。
あつらえてもらったのは広い肩幅にぴったりのスーツ。
それに合わせてにいさん夫婦はネクタイを、ねえさんはネクタイピンをくれた。
かっこよくきめてコウは颯爽と、いつかのあの道を、成人式へと歩く。
おめでとう!コウちゃん。
まちのひとはやっぱりそう呼んで祝福した。
ありがとうございます。
コウちゃんはまっすぐなまなざしでこたえる。

           至光社月刊こどものせかい2014年5月号付録にじのひろば掲載