だんまり日記 12月

 

◆夏の暑さで枯れ落ちた庭のヤマボウシの葉が秋になって新芽をふいたのが

いまきれいに紅葉しているむこうに

むかいの山の禿げた崖がみえる。

崖の斜面に立っているのは

切り株だろう。

 

◆とおもっっていたのだが、

ひとのみまちがいだった。

開発業者が崖を調査中だ。

急斜面のせいだろう、ほとんどじっとたったままで、

いったいなにを確認しているのだろう。

 

◆と おもってみていたが

ちょっとゆらっとうごくことがあるような気がするのは錯覚で

やはり切り株だ。

 

◆切り株が、

肩をゆすって

歩きだそうとしているのだ。

 

◆「こんなまるはだかのやまにしたのはだれだ。かえせ。」

 

◆「だれだ。だれだ。いまから おまえのところへいくから  待っていろ」

 

◆目がはなせない。

 

◆石巻の北上川の川べりにある大学の敷地から見える空で

となりまちの基地のブルーインパルスが稽古しているのをみる。

 

◆せんせいに先導されて

わかいちいさいひこうきが 吐く煙は

ばふばふとつまり気味に短く、

操縦しているのはきっと新人さんだろう。

 

◆がんばれ。

 

◆うまくなるのをみんな待っている。

 

◆うまくなってゆくのをながめて はげまされるひとが

きっと いる。

 

◆いつかかっこいい先輩たちと、

うつくしい雲をひいて飛んで。

 

◆へいわのそらを  飛んで。

 

◆ふたたび訪れた石巻の川沿いの大学で、

保育士さんや小学校の先生になろうとしているわかいひとたちに

えほんのおはなしをした。

 

◆えほん、って なんでしょ。

 

◆どうやって つくるでしょ。

 

◆「わかる」ってなんでしょ。

 

◆ことば以前、ってなんでしょ。

 

◆えほんの感覚。

 

◆おとなになっても決してなくならない心の底流。

 

◆えと ことばと そのすきまで作るせかい のはなし。

 

◆みんな聞いてくれて参加してくれてありがとうございました。

 

◆「これ。せつない。いいです、これ、ほしいです。」

「こんなふうに、橋で だれかを 待つ、おれ。」

「なんか、いい。とりはだ、たってきた」

「この、ことばがまったくない、本、はまるんですけど。」

「ないほうが いいんですけど」

「絵本の世界観かわった。」

 

◆こどもであるって、

成熟しないことじゃない。

せかいを肯定するこころを

見失わないことだ。

 

◆と、言ってみたりしたい。

 

◆生きるよろこび。

 

◆そこにいるだれも、なくしていなかった。

 

◆編集さんとする作業を披露したら、

みんなあっというまに鬼編集に変身。

絵を自由にならべかえて、

あーだこうだと作業をはじめて

おばさんは胸がいっぱいだった。

 

◆みんなが

こころを ふるふるとうごかしている 現場。

 

◆「東北の学生は、一歩二歩おいて、

積極的に気持ちをなかなかあらわさないところがあるので

正直、学生の反応にびっくりしました」

って学部長先生にも感想いただいて

余韻をひきずりまくって

帰った、

刈田にながく影をひく石巻線にのって。

 

◆ふと  あふれ出る おもい。

花が  咲くように。

 

◆仙台で光のページェントの点灯に立ち会い、

東北のひとびとと

歓声をあげて、

もう半泣きになった すてきなひとりたび。

 

◆ありがとう、わかいみんな。

ありがとう、東北。

 

◆ありがとう、石巻。

 

◆カイユボットの ノルマンディーのひかり。

谷内こうたさんの ノルマンディーのひかり。

ノルマンディーに行きたくなって

ものすごくこまっている。

 

◆絵が になってきたことを

写真ができるようになって

それならば、と 絵が

あたらしくやろうとしたことを

かこうとしていた古い画家の展覧会を出て、

写真展へむかう。

 

◆写真で

絵をかこうとしたひとの。

 

◆夫と行く。

 

◆植田正治をきっと好きだとおもうよ。

 

◆「うん。好きだ。いままでのどの写真より好きだ。」

 

◆とるひとと とられるひとやものとの間にある、愛情。

が うつる。

 

◆それから銀座の楽器店へ行く。

2時からライブだ。

 

◆ずっと、待ってました、西の、若いギタリスト。

 

◆ギターが、うたう。

 

◆「いいなあ。いいなああああ。4時のも みよう。」

 

◆「ちょっとそこでビール飲んで待っていよう。」

 

◆ソロのアコースティックギターとかモノクロの静物写真とかの前で

立ち止まるということ、立ち止まらされるということ

立ち止まらないひとたちのこと、立ち止まって「つまらない」というひとたちのこと。

 

◆そんなつれづれを話しながらメニューをながめればそこに 琥珀。

 

◆すいませーん、エビス琥珀をジョッキでふたつください。

半分まで一気にのみながら気づいたのは

この男にであえたことこそが

めっちゃ「ギフト」だな、ということだが そんなことは到底口にできない。

 

◆だれが 言うか。  ジョッキに半分くらいで。

 

◆神さま。男のほうもそう思ってますように。

 

◆おなじものをみて

いいな。好きだな。 という。

おなじものをみても

え~。別に好きじゃねえな。

ともいう。

ま、君は好きそうだな。

 

◆乾杯。

 

◆「ビアホールってのはあれだね、

基本、ビールが好きな人しか来てないからね、

おちついてしまうなあ、4時4時4時。

4時だぞ。」

 

◆暮れの街をふたりであるく。

ちいさな子をつれた若いカップルを眺める。

だだをこねてのけぞっているちいさな子の絶叫に

つい微笑む。

 

◆駅の通路で

迷子の放送としかおもえない呼び出しをきく。

 

◆そんな日々があったはずだが

うつくしくたたまれてすっとんでいる。

 

◆苦労もしたはずだが 思い出すのは光の点々みたいな眺めだ。

 

◆そこの イルミネーションみたいに。

 

◆みんながんばれ。

 

◆それからそのまま夫は出稼ぎにゆく。

海峡の向こうへ。

おおむかしのように

新橋駅で別れる。

 

◆メリークリスマス。

 

◆うらさびしいクリスマスのうたが あたまのなかで鳴り始めるのを押しやって

演歌も まあわるくない。

 

◆うすら寒いひとりの夜に

かけっぱなしのモノラル放送のラジオから演歌がきこえてくれば もう

皿洗いの気分は最高潮!

 

◆生まれ変わったら

北のはずれの港町の場末の居酒屋の女将になるんだ。

その練習。

 

◆あら。

おかえんなさい。

 

◆おきゃくさんに

そう  言おう。

 

◆影のある ほほえみで

そう 言おう。

 

◆と  大師匠から電話。

 

◆いったかい?植田正治は。

 

◆行きました、行きました、恵比寿も東京駅も行きました、

夫も行きました。

 

◆なら、いい。見といたほうがいい。

写真でも あそこまでできる。

すごいことだ。

 

◆いかが おすごしですか。

 

◆うん、生きてるよ。

ひさしぶりに 逗子の風に あたりたいな。

 

◆いらしてください。きっといらっしゃってください。

 

◆大師匠のように、としをかさねると

志だけはきめてある。

 

◆夫と そう きめている。

 

◆無常を心得て、生き切る。

 

◆あす、夫が出稼ぎからもどる前に、

友人と麦酒屋へ行く。

 

◆友人の亭主はもう、

ながながと

別の海峡の向こうへ出稼ぎに行ったきりだ。

 

◆ふたりで   飲む。

 

◆しみじみ 飲もう。

 

◆演歌な気分で わらおう。

人生はながい。

 

◆理科ハウスの実験イベントは

ノウハウでは できていない。

 

◆見学に来ている先生方よ、

学芸員の あのまなざしをみよ。

あのかがやきをみよ。

 

◆あの 魂に 触れよ。

 

◆ここは教室じゃない。

ライブ会場だ。

 

◆目の前にくりひろげられる現象に自分がただ夢中になっている学芸員に

こどもたちがくらいついていっている空気が

写真にもうつりこむ。

 

◆彼女はなにも教えてない。

うたっている。

 

◆こどもだもの。

 

◆生きるよろこびの かたまりだもの。

 

◆こどもであるって、

成熟しないことじゃない。

せかいを肯定するこころを

見失わないことだ。

 

◆さっきも いったけど。

 

◆乾杯!